今度こそわかるガロア理論 芳沢光雄

[定義] 自己同型写像

G から G の上への同型写像G自己同型写像という.G の自己同型写像全体からなる集合を Aut(G) と書くと,Aut(G)写像の合成に関して群となり(G 上の対称群 S^G の部分群),これを G自己同型群という(単位元G 上の恒等写像).

 

[定義] 代数拡大

L は体 K の拡大体であるとする.このとき,L の元 \alphaK 上のある多項式 f(x)(\neq 0) の根であるとき,\alphaK代数的であるといい,そうでないとき超越的であるという.また,L のすべての元が K 上代数的のとき,LK代数拡大体であるという.

L が体 K の拡大体であるとき,LK 上の線形空間である.この線形空間の次元を [L:K] で表し,LK 上の次数という.とくに [L:K] が有限のとき,LK有限次拡大体という.

 

[定義] 最小多項式

L が体 K の拡大体で,L の元 \alphaK 上代数的であるとき,(略)\alpha に対して一意的に定まる f(x)\alphaK 上の最小多項式といい,Irr(\alpha,K) で表す(irreducible:既約).もちろん,Irr(\alpha,K) は,K 上の既約多項式である.

なお,一般に最高次係数が1の多項式モニックという.そこで Irr(\alpha,K) はモニックな規約多項式である.

 

[定義] 最小分解体

K 上の1変数多項式 f(x) が,K の拡大体 L において,

f(x) = a(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_n) (a,\alpha_i \in L)

と1次式の積に分解されるとき,Lf(x)分解体という.また(f(x) の分解体はいろいろ考えられるだろうが),L の分解体で f(x) の分解体となるものは体 K(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n) を必ず含む.そこで,体 K(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n) をLにおける f(x)最小分解体という.

 

[定義] 分離的拡大

K 上の1変数多項式 f(x) の任意の分解体Lに対し,L[x] において

f(x) = a(x-\alpha_1)^{e_1}(x-\alpha_2)^{e_2} \cdots (x-\alpha_m)^{e_m}

と分解できる(a \in K, \alpha_i \in L, \alpha_i \neq \alpha_j (i \neq j), e_i \in N).L[x] は素元分解環であるから,この分解は L[x] においては一意的である.さらに,f(x)K 上の最小分解体は互いに K- 同型であるから,この分解はどのような分解体でも本質的には同じである.

それを踏まえて,各 \alpha_if(x)e_i 重根であるといい,e_i \geq 2 のとき \alpha_if(x) の重根であるという.また e_1 = e_2 = \cdots = e_m = 1 のとき f(x)分離的あるといい,そうでないとき f(x)非分離的であるという.

L が体 K の代数拡大体であるとき,L の元 \alphaK 上の最小多項式 Irr(\alpha,K) が分離的か非分離的であるかによって,\alpha はK上分離的非分離的であるという.

とくに,K の代数拡大体 L のすべての元が K 上分離的である時LK分離的(拡大)であるという.さらに,K のすべての代数拡大体が K 上分離的であるときK完全体であるという.

 

[定義] 導関数

多項式 f(x) =a_{0}x^n + a_{1}x^{n-1} + \cdots + a_{n-1}x + a_n に対し,

f(x)^{\prime} = na_{0}x^{n-1} + (n-1)a_{1}x^{n-2} + \cdots + a_{n-1}

f(x)導関数という.

 

[定義] 単純拡大

K の拡大体 LL の1つの元 a によって L=K(a) と表されるとき,LK単純拡大であるという.\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})=\mathbb{Q}(\sqrt{2} + \sqrt{3}) であるので,\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})\mathbb{Q} の単純拡大である.

 

[定義] 正規拡大

体Kの代数拡大体の元 \alpha\beta に対して,Irr(\alpha,K) = Irr(\beta,K) が成り立つとき,\alpha\betaK(互いに)共役であるという.

体 L が体 K正規拡大であるとは,L は K の代数拡大で,L の任意の元 \alpha に対し,L は,Irr(\alpha,K) の分解体になっている(Irr(\alpha,K) の分解体が L である)ときにいう.

したがって体 L が体 K の代数拡大であるとき,次が成り立つ.

LK の正規拡大

\Leftrightarrow L の任意の元 \alpha に対し,\alphaK 上共役な(L の代数て拡大体の)元はすべて L に属する

 

[定義] 自己同型群

K が体のとき,K から K の上への体としての同型写像K自己同型写像といい,それら全体からなる集合を Aut(K) で表し,これを K自己同型群という.実際,写像の合成に関して Aut(K) が群であることは明らかである.また,L が体 K の拡大体であるとき,

Aut_K(L) =\{\sigma \in Aut(L)|\sigmaK 上では恒等写像\}

写像の合成に関して群になる.特に LK の正規拡大である場合には,この群を LK 上のガロアという.

 

[定義] 不変体,不変群

K が体,GK の自己同型群 Aut(K) の部分群であるとき,

\{a \in K|すべての \sigma \in G に対し \sigma(a) = a\}

を(K における)G不変体と呼んで,K^G で表す.K^G は K の部分体である.

 逆に L が体 K の拡大体であるとき,

\{a \in Aut(L)| すべての a \in K に対し \sigma(a) = a\}

を(Aut(L) における)K不変群と呼んで,Aut(L)^K で表す.Aut(L)^KAut(L) の部分群である.

 

[定義] ガロア拡大

L が体 K の分離的正規拡大体であるとき,LKガロア拡大という.さらに,Aut_K(L) が可換群,巡回群となるとき,それぞれ LKアーベル拡大巡回拡大という.

K標数0の体とし,f(x) を K 上の重根を持たない多項式とする.このとき L を f(x)K 上の最小分解体とすると,L は K 上のガロア拡大となる.このとき LK 上のガロアAut_K(L)f(x)ガロア群といい,Gal_K(f) で表すことにする.