各書籍の「ガロア(ガロワ)拡大」

「ガロワと方程式」,「代数の世界」の定義中の「すべての共役体が一致している」というのがしっくりこない.体 K が体 F 上のガロワ拡大であるというのは,要は,K は F 上の代数拡大で,K の各元の(F 係数の) 最小多項式(既約多項式?)は,重根をもたない1次式に分解できるということ?

「ガロワと方程式」(草場公邦)の場合

(p.127) [定義 6.1] 体 F の分離拡大体 KF 上のすべての共役体が一致しているとき,この共通の体 K を,Fガロワ拡大(体)であるという。

K = F(\alpha) で,\alphaF 上の共役数を \alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n としたとき,

K = F(\alpha) = F(\alpha_2) = \cdots = F(\alpha_n)

すなわち,KF 上の共役体がすべて同一であれば,KF のガロワ拡大体というわけです.このことは,K\alpha の共役数をすべて含んでいることを意味します.

\sqrt[3]{2} を含む体 \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) は,\mathbb{Q} のガロワ拡大ではない. \sqrt[3]{2} の最小多項式x^3 - 2 だから,\sqrt[3]{2} の共役数は、ほかに \omega\sqrt[3]{2},\omega^2\sqrt[3]{2} があって、これらは, \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) に含まれない.

K = \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)\mathbb{Q} 上のすべての共役体が一致しているとは,どういうこと?

分離的とは,

(p.104) [定義 4.10] 分解体で相異なる1次多項式の積に分解される F 係数多項式分離多項式,そうでないものを非分離多項式という.分離多項式の根を F分離的な元,非分離多項式の根を F 上非分離的な元という.

いい換えると,分離多項式は重根をもたない多項式のことです.

[定義 4.11]  F の拡大体 K の任意の元が F 上分離的なとき,KF分離拡大体という.

つまり,KF の分離拡大体であるとは,K の任意の元が重根をもたない F 係数の多項式の根となれるということ.ならば,KF 上の分離拡大体の共役体とは...

 

「代数の世界」(渡辺敬一,草場公邦)の場合

(p.153) 分離的な正規拡大 K/k を特にガロワ拡大と云います.標数が 0 のときや,有限体などの完全体を考えているときには正規拡大はガロワ拡大と同意義です.

正規拡大は以下のとおり.「ガロワと方程式」のガロワ体の定義と分離性がないこと以外,ほぼ同じ.

(p.142) \overline{k}/k の中間体 Kk 上のすべての共役体が K に一致するとき,Kk の正規拡大という.

さらに,共役体は以下のとおり.

(p.140) \overline{k}/k の中間体 K, K^{\prime}k 上同型であるとき,この二つの体は k 上共役であると云い,K から K^{\prime} への k 同型写像を共役写像と呼ぶことにします.

KK^{\prime} が共役ならば,K から K^{\prime} への同型写像があるのが「共役」なのはいいとして,この二つの共役体が一致するならば,K = K^{\prime} なのだから,KK^{\prime} が同型って,循環してないか?

この定義の直後の正規拡大の特徴はガロワ拡大の理解に役立ちそう.

(p.142) 定理 4.9 既約多項式 f(X) \in k[X] が正規拡大 K/k で根を持てば,K で1次式に分解する.逆に代数拡大 K/k で一つの根を持つすべての既約多項式 f(X) \in k[X]K で1次式に分解すれば,K/k は正規拡大である.

その次の定理も

定理 4.10 任意の有限次正規拡大 K/k は(必ずしも既約でない)多項式 f(X) \in k[X] のすべての根を添加した体(= f(X) の分解体)である.逆に,ある多項式 f(X) \in k[X] の分解体 Kk 上の正規拡大である.

 

「こんどこそわかるガロア理論」(芳沢光雄)の場合

(p.134) 体 L が体 K の分離的正規拡大であるとき,LKガロア拡大という. 

また,「正規拡大」は,以下のように定義される.

(p.128) 体 L が体 K正規拡大であるとは,LK の代数拡大で,L の任意の元 \alpha に対し,LIrr(\alpha, K) の分解体になっているときにいう.

したがって体 L が体 K の代数拡大であるとき,次が成り立つ.

LK の正規拡大

\Leftrightarrow L の任意の元 \alpha に対し,\alphaK 上共役な(L の代数拡大体の)元はすべて L に属する.

はじめの定義中の「分離的」は,既約多項式が重根を持たないことを保証するためと思われる.

この定義なら,\sqrt[3]{2} を含むガロア拡大体が \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega) だが,\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})ガロア拡大体でないことはわかる.

 

ガロア理論入門」(E.Artin,寺田文行=訳)の場合

(p.46) 定義K の拡大体 E があり,KE の自己同型写像のつくるある有限群 G の不変体になっているとき,EK正規拡大体であるといい,GEK 上の自己同型群という.

f(x)K 内の多項式で,その既約因子がすべて重根をもたないとき,f(x)分離的であるとよばれる.EK の拡大体とするとき,K 内のある分離的な多項式の根であるような E の要素 \alpha は,分離的であるとよばれる.E の要素がすべて分離的のとき,EK分離拡大体であるとよばれる.

「共役」がまったく出てこない.よくわからなくなるのは,次の定理15.

定理 15. 

正規拡大体は分離拡大体?

Artin の基本定理は,正規拡大体と自己同型群の関係となる.

定理 17. 

拡大体が正規であるための必要十分条件が次の定理.

定理 18. E が K の正規拡大体であるための(必要十分)条件は,E が K 内のある分離多項式の分解体となっていることである.