『数、方程式とユークリッド幾何』メモ

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系 2.3.16 加法群 Z/nZ の自己同型の群は,既約剰余類の乗法群 (Z/nZ)^\times と同型である.

 最後の「同型」は,自己同型の群と既約剰余類の乗法群の間の「同型」.「同型」がたくさんでて,混乱する.

たとえば,Z/3Z は,加法群として見た場合,[0], [1], [2] からなる群で,その単位元[0].自己同型の群は,恒等写像 \epsilon[0], [1], [2] をそれ自身に移す写像)と [0] を固定し,[1], [2] を入れ替える互換からなる写像 \varphi の2つ.自己同型の演算は \epsilon \cdot \epsilon = \epsilon, \epsilon \cdot \varphi = \varphi, \varphi \cdot \epsilon = \varphi, \varphi \cdot \varphi = \epsilon となる.

既約剰余類の乗法群 (Z/3Z)^\times は, [1], [2] からなる群で,単位元[1],演算は,[1] \cdot [2] = [2], [2] \cdot [1] = [2], [2] \cdot [2] = [1] となる.

 加法群 Z/nZ の自己同型の群の \epsilon と \varphi をそれぞれ既約剰余類の乗法群 (Z/3Z)^\times の  [1], [2] に移す写像がこれら2つの群の同型写像となる.

『ガロワと方程式』の見落とし項目

(p.112) 拡大体の同型の個数の決定.

[定理 5.2] \mathbb{Q} 上代数的数は,任意の同型により \mathbb{Q} 上の共役数に写される。

証明:(略)

この定理から,代数的数 \alpha\mathbb{Q} に添加した体 K = \mathbb{Q}(\alpha) に同型な体 E は,ある \alpha の共役数 \alpha_i があって,E = \mathbb{Q}(\alpha_i) となることがわかります.\mathbb{Q} の元は不動ですから,

\sigma:\mathbb{Q}(\alpha) \cong \mathbb{Q}(\alpha_i) (5.1)

つまり,\mathbb{Q}(\alpha) に同型な体は,共役体以外にはないということがわかります.(略)

[定理 5.3] \mathbb{Q}n 次の代数的数 \alpha に対して,その共役数を \alpha = \alpha_1, \cdots, \alpha_{n-1}, \alpha_{n} とすると,K = \mathbb{Q}(\alpha) の同型(な体)はちょうど n 個([K : Q] = n に注意)あり,それらは \sigma_i(\alpha) = \alpha_i で完全に定まる.

\sigma_i(a_0 + a_1\alpha + \cdots + a_{n-1}\alpha^{n-1}) = a_0 + a_1\alpha_i + \cdots + a_{n-1}\alpha_i^{n-1}

(ただし,a_0,a_1,\cdots,a_{n-1} \in F

\sigma_i : \mathbb{Q}(\alpha) \cong \mathbb{Q}(\alpha_i) \hspace{15pt} (i = 1,2,\cdots,n)

 一般の体の場合:

[定理 5.5] 体 Fn 次の代数的数 \alpha に対して,\alphaF 上の相異なる共役数を \alpha = \alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_m とすると,K = F(\alpha)F 上の同型はちょうど m 個あり,それらは \sigma_i(\alpha) = \alpha_i で完全に定まる.すなわち

\sigma_i(a_0 + a_1\alpha + \cdots + a_{n-1}\alpha^{n-1}) = a_0 + a_1\alpha_i + \cdots + a_{n-1}\alpha_i^{n-1}

(ただし,a_0,a_1,\cdots,a_{n-1} \in F

\sigma_i : F(\alpha) \cong F(\alpha_i) \hspace{15pt} (i = 1,2,\cdots,m)

特に,\alphaF 上分離的ならば,

m = [F(\alpha) : F] = n

である.

 

代数方程式が解けることを「体」で表現すること

『今度こそわかるガロア理論』(p.147)

[定義] 根号表示

\mathbb{Q} を含む体 K 上の多項式

f(x) = a_{0}x^{n} +  a_{1}x^{n-1} + \cdots + a_{n-1}x + a_n \hspace{15pt} (a_i \in K)

の根 \alpha が(K 上で)根号表示されるとは,K の元と根号 \sqrt[r]{\ } と四則演算によって \alpha が表せるときにいう.そして Q 上の多項式 f(x) のすべての根が(\mathbb{Q} 上で)根号表示されるとき,f(x) は代数的に解けるという.(\mathbb{Q} の代わりに \mathbb{Q}(a_0, a_1, a_2, \cdots, a_n) 上で考える立場もある.)

根号表示されることの意味を別の形で述べてみよう.\mathbb{Q} を含む体 K の有限次拡大体 L (\subseteq \mathbb{C}) とその中間体の列

K = L_0 \subsetneq L_1 \subsetneq L_2 \subsetneq \cdots \subsetneq L_s = L

があって,各 i = 0, 1, \cdots, s-1 に対し

L_{i+1} = L_i(\sqrt[n_i]{a_i}) \  (a_i \in L_i)

となるとき,L は体 Kべき根による拡大体であるという.そして \alphaL の元であるとき,\alpha は(K 上で)根号表示されるという.

 『ガロワと方程式』(p.141)

さて,べき根とは x^n = a の解のことをいいます.\alpha_0 = \sqrt[n]{a} = a^{1/n} を一つの解とし,

\hspace{30pt}\omega_n = cos(2\pi/n) + i sin(2\pi/n)

とすると,f(x) = x^n - a = 0 のすべての解は

\hspace{30pt}\alpha_k = \omega_n^k\alpha_0 \hspace{15pt} (k = 0, 1, \cdots, n-1)

で表されます.

(p.150)

べき根で解けるということは,基礎の体 F に対して,f(x) の分解体 K が,F から始まるベキ根拡大体の系列,すなわち

F = F_0 \subset F_1 \subset F_2 \subset \cdots \subset F_k \  (6.32)

で,F_{i+1}F_iベキ根拡大体になっているような系列があって,K \subset F_k であればよいことがわかります.

重根をもたない \mathbb{Q} 係数の n 次方程式 f(x) の根を \alpha_1, \cdots, \alpha_n としたとき,\mathbb{Q}\alpha_1, \cdots, \alpha_n を添加してできる体 K (= f(x) の分解体)がベキ根拡大体になっていれば,その方程式は,べき根で解ける,ということ.

では,方程式がべき根で解けるためには,どのような条件を満たしているかを判定することが必要となる.そのためには Kガロア群を調べればよいというのが,“方程式のガロア理論”で,

方程式の分解体がベキ根拡大体 \Longleftrightarrow ガロア群は可解群

となる.\Longrightarrow の対偶は,

ガロア群が可解群でない \Longrightarrow 方程式の分解体はベキ根拡大体でない

となって,一般の n 次(n \ge 5)以上の方程式のガロア群は,n 次対称群 S_n(と同型)で,それは可解群ではないので,その方程式の分解体は,ベキ根拡大体ではない,となって,分解体の元は根号表示できない,すなわち,有理数に四則演算とベキ開を作用させて得ることができないということになる.

 

 

各書籍の「ガロア(ガロワ)拡大」

「ガロワと方程式」,「代数の世界」の定義中の「すべての共役体が一致している」というのがしっくりこない.体 K が体 F 上のガロワ拡大であるというのは,要は,K は F 上の代数拡大で,K の各元の(F 係数の) 最小多項式(既約多項式?)は,重根をもたない1次式に分解できるということ?

「ガロワと方程式」(草場公邦)の場合

(p.127) [定義 6.1] 体 F の分離拡大体 KF 上のすべての共役体が一致しているとき,この共通の体 K を,Fガロワ拡大(体)であるという。

K = F(\alpha) で,\alphaF 上の共役数を \alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n としたとき,

K = F(\alpha) = F(\alpha_2) = \cdots = F(\alpha_n)

すなわち,KF 上の共役体がすべて同一であれば,KF のガロワ拡大体というわけです.このことは,K\alpha の共役数をすべて含んでいることを意味します.

\sqrt[3]{2} を含む体 \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) は,\mathbb{Q} のガロワ拡大ではない. \sqrt[3]{2} の最小多項式x^3 - 2 だから,\sqrt[3]{2} の共役数は、ほかに \omega\sqrt[3]{2},\omega^2\sqrt[3]{2} があって、これらは, \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) に含まれない.

K = \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)\mathbb{Q} 上のすべての共役体が一致しているとは,どういうこと?

分離的とは,

(p.104) [定義 4.10] 分解体で相異なる1次多項式の積に分解される F 係数多項式分離多項式,そうでないものを非分離多項式という.分離多項式の根を F分離的な元,非分離多項式の根を F 上非分離的な元という.

いい換えると,分離多項式は重根をもたない多項式のことです.

[定義 4.11]  F の拡大体 K の任意の元が F 上分離的なとき,KF分離拡大体という.

つまり,KF の分離拡大体であるとは,K の任意の元が重根をもたない F 係数の多項式の根となれるということ.ならば,KF 上の分離拡大体の共役体とは...

 

「代数の世界」(渡辺敬一,草場公邦)の場合

(p.153) 分離的な正規拡大 K/k を特にガロワ拡大と云います.標数が 0 のときや,有限体などの完全体を考えているときには正規拡大はガロワ拡大と同意義です.

正規拡大は以下のとおり.「ガロワと方程式」のガロワ体の定義と分離性がないこと以外,ほぼ同じ.

(p.142) \overline{k}/k の中間体 Kk 上のすべての共役体が K に一致するとき,Kk の正規拡大という.

さらに,共役体は以下のとおり.

(p.140) \overline{k}/k の中間体 K, K^{\prime}k 上同型であるとき,この二つの体は k 上共役であると云い,K から K^{\prime} への k 同型写像を共役写像と呼ぶことにします.

KK^{\prime} が共役ならば,K から K^{\prime} への同型写像があるのが「共役」なのはいいとして,この二つの共役体が一致するならば,K = K^{\prime} なのだから,KK^{\prime} が同型って,循環してないか?

この定義の直後の正規拡大の特徴はガロワ拡大の理解に役立ちそう.

(p.142) 定理 4.9 既約多項式 f(X) \in k[X] が正規拡大 K/k で根を持てば,K で1次式に分解する.逆に代数拡大 K/k で一つの根を持つすべての既約多項式 f(X) \in k[X]K で1次式に分解すれば,K/k は正規拡大である.

その次の定理も

定理 4.10 任意の有限次正規拡大 K/k は(必ずしも既約でない)多項式 f(X) \in k[X] のすべての根を添加した体(= f(X) の分解体)である.逆に,ある多項式 f(X) \in k[X] の分解体 Kk 上の正規拡大である.

 

「こんどこそわかるガロア理論」(芳沢光雄)の場合

(p.134) 体 L が体 K の分離的正規拡大であるとき,LKガロア拡大という. 

また,「正規拡大」は,以下のように定義される.

(p.128) 体 L が体 K正規拡大であるとは,LK の代数拡大で,L の任意の元 \alpha に対し,LIrr(\alpha, K) の分解体になっているときにいう.

したがって体 L が体 K の代数拡大であるとき,次が成り立つ.

LK の正規拡大

\Leftrightarrow L の任意の元 \alpha に対し,\alphaK 上共役な(L の代数拡大体の)元はすべて L に属する.

はじめの定義中の「分離的」は,既約多項式が重根を持たないことを保証するためと思われる.

この定義なら,\sqrt[3]{2} を含むガロア拡大体が \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega) だが,\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})ガロア拡大体でないことはわかる.

 

ガロア理論入門」(E.Artin,寺田文行=訳)の場合

(p.46) 定義K の拡大体 E があり,KE の自己同型写像のつくるある有限群 G の不変体になっているとき,EK正規拡大体であるといい,GEK 上の自己同型群という.

f(x)K 内の多項式で,その既約因子がすべて重根をもたないとき,f(x)分離的であるとよばれる.EK の拡大体とするとき,K 内のある分離的な多項式の根であるような E の要素 \alpha は,分離的であるとよばれる.E の要素がすべて分離的のとき,EK分離拡大体であるとよばれる.

「共役」がまったく出てこない.よくわからなくなるのは,次の定理15.

定理 15. 

正規拡大体は分離拡大体?

Artin の基本定理は,正規拡大体と自己同型群の関係となる.

定理 17. 

拡大体が正規であるための必要十分条件が次の定理.

定理 18. E が K の正規拡大体であるための(必要十分)条件は,E が K 内のある分離多項式の分解体となっていることである.

 

 

 

ガロワと方程式

6.1 ガロワ拡大とガロワ群

[定義 6.1] ガロワ拡大体

F の分離拡大体 KF 上のすべての共役体が一致しているとき,この共通の体 K を,Fガロワ拡大(体)であるという.

 

補足

  • 「体 F の分離拡大体 K」:K は,その任意の元が F 上分離的(元が重根を持たない最小多項式の根である.
  • [定理 4.15] (p.107)「KF の分離拡大であれば,単拡大である.すなわち,K = F(t) となる t \in F が存在する」により,ある \alpha \in F があって,K = F(\alpha) で,\alphaF 上の共役数を \alpha_1 = \alpha, \alpha_2, \cdots, \alpha_n としたとき,KF のガロワ拡大であるとは,以下が成り立つこと.

K = F(\alpha) = F(\alpha_2) = \cdots = F(\alpha_n)

  • K = F(\alpha) なら,[定理 4.3] (p.87)「aFn 次の代数的数であれば,F(a) の任意の元は,すべて an-1 次の多項式として一意的に表せる」と [定理 4.6] (p.92)「F 上代数的な a,b に対して,a+b,a-b,ab,a/bF 上代数的である」から,K の任意の元は,F 上代数的,すなわち分離的である.
  • \alphaF 上の最小多項式f(x) としたとき,Kf(x) のすべての根を含んでいる,すなわち,Kf(x) は1次多項式の積に分解するので,Kf(x) の分解体であるというのと同義.
  • KF 上の同型はすべて KK に写すので,KF 上のガロワ拡大であれば,K の自己同型になる.

 

[定義 6.2] ガロワ群

K が体 F のガロワ拡大であるとき,KF 上の自己同型(F の元を不動にする自己同型 (p.112))のなす群を,KF 上のガロワ群といい,Gal(K/F) と記す.(※ Gal (K/F) は,K の自己同型群 Aut(K) の部分群である.)

 

 

今度こそわかるガロア理論 芳沢光雄

[定義] 自己同型写像

G から G の上への同型写像G自己同型写像という.G の自己同型写像全体からなる集合を Aut(G) と書くと,Aut(G)写像の合成に関して群となり(G 上の対称群 S^G の部分群),これを G自己同型群という(単位元G 上の恒等写像).

 

[定義] 代数拡大

L は体 K の拡大体であるとする.このとき,L の元 \alphaK 上のある多項式 f(x)(\neq 0) の根であるとき,\alphaK代数的であるといい,そうでないとき超越的であるという.また,L のすべての元が K 上代数的のとき,LK代数拡大体であるという.

L が体 K の拡大体であるとき,LK 上の線形空間である.この線形空間の次元を [L:K] で表し,LK 上の次数という.とくに [L:K] が有限のとき,LK有限次拡大体という.

 

[定義] 最小多項式

L が体 K の拡大体で,L の元 \alphaK 上代数的であるとき,(略)\alpha に対して一意的に定まる f(x)\alphaK 上の最小多項式といい,Irr(\alpha,K) で表す(irreducible:既約).もちろん,Irr(\alpha,K) は,K 上の既約多項式である.

なお,一般に最高次係数が1の多項式モニックという.そこで Irr(\alpha,K) はモニックな規約多項式である.

 

[定義] 最小分解体

K 上の1変数多項式 f(x) が,K の拡大体 L において,

f(x) = a(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_n) (a,\alpha_i \in L)

と1次式の積に分解されるとき,Lf(x)分解体という.また(f(x) の分解体はいろいろ考えられるだろうが),L の分解体で f(x) の分解体となるものは体 K(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n) を必ず含む.そこで,体 K(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n) をLにおける f(x)最小分解体という.

 

[定義] 分離的拡大

K 上の1変数多項式 f(x) の任意の分解体Lに対し,L[x] において

f(x) = a(x-\alpha_1)^{e_1}(x-\alpha_2)^{e_2} \cdots (x-\alpha_m)^{e_m}

と分解できる(a \in K, \alpha_i \in L, \alpha_i \neq \alpha_j (i \neq j), e_i \in N).L[x] は素元分解環であるから,この分解は L[x] においては一意的である.さらに,f(x)K 上の最小分解体は互いに K- 同型であるから,この分解はどのような分解体でも本質的には同じである.

それを踏まえて,各 \alpha_if(x)e_i 重根であるといい,e_i \geq 2 のとき \alpha_if(x) の重根であるという.また e_1 = e_2 = \cdots = e_m = 1 のとき f(x)分離的あるといい,そうでないとき f(x)非分離的であるという.

L が体 K の代数拡大体であるとき,L の元 \alphaK 上の最小多項式 Irr(\alpha,K) が分離的か非分離的であるかによって,\alpha はK上分離的非分離的であるという.

とくに,K の代数拡大体 L のすべての元が K 上分離的である時LK分離的(拡大)であるという.さらに,K のすべての代数拡大体が K 上分離的であるときK完全体であるという.

 

[定義] 導関数

多項式 f(x) =a_{0}x^n + a_{1}x^{n-1} + \cdots + a_{n-1}x + a_n に対し,

f(x)^{\prime} = na_{0}x^{n-1} + (n-1)a_{1}x^{n-2} + \cdots + a_{n-1}

f(x)導関数という.

 

[定義] 単純拡大

K の拡大体 LL の1つの元 a によって L=K(a) と表されるとき,LK単純拡大であるという.\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})=\mathbb{Q}(\sqrt{2} + \sqrt{3}) であるので,\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})\mathbb{Q} の単純拡大である.

 

[定義] 正規拡大

体Kの代数拡大体の元 \alpha\beta に対して,Irr(\alpha,K) = Irr(\beta,K) が成り立つとき,\alpha\betaK(互いに)共役であるという.

体 L が体 K正規拡大であるとは,L は K の代数拡大で,L の任意の元 \alpha に対し,L は,Irr(\alpha,K) の分解体になっている(Irr(\alpha,K) の分解体が L である)ときにいう.

したがって体 L が体 K の代数拡大であるとき,次が成り立つ.

LK の正規拡大

\Leftrightarrow L の任意の元 \alpha に対し,\alphaK 上共役な(L の代数て拡大体の)元はすべて L に属する

 

[定義] 自己同型群

K が体のとき,K から K の上への体としての同型写像K自己同型写像といい,それら全体からなる集合を Aut(K) で表し,これを K自己同型群という.実際,写像の合成に関して Aut(K) が群であることは明らかである.また,L が体 K の拡大体であるとき,

Aut_K(L) =\{\sigma \in Aut(L)|\sigmaK 上では恒等写像\}

写像の合成に関して群になる.特に LK の正規拡大である場合には,この群を LK 上のガロアという.

 

[定義] 不変体,不変群

K が体,GK の自己同型群 Aut(K) の部分群であるとき,

\{a \in K|すべての \sigma \in G に対し \sigma(a) = a\}

を(K における)G不変体と呼んで,K^G で表す.K^G は K の部分体である.

 逆に L が体 K の拡大体であるとき,

\{a \in Aut(L)| すべての a \in K に対し \sigma(a) = a\}

を(Aut(L) における)K不変群と呼んで,Aut(L)^K で表す.Aut(L)^KAut(L) の部分群である.

 

[定義] ガロア拡大

L が体 K の分離的正規拡大体であるとき,LKガロア拡大という.さらに,Aut_K(L) が可換群,巡回群となるとき,それぞれ LKアーベル拡大巡回拡大という.

K標数0の体とし,f(x) を K 上の重根を持たない多項式とする.このとき L を f(x)K 上の最小分解体とすると,L は K 上のガロア拡大となる.このとき LK 上のガロアAut_K(L)f(x)ガロア群といい,Gal_K(f) で表すことにする.

 

 

ガロア理論入門 E. Artin (訳: 寺田文行)

原書では…

 

10. アーベル群のその応用*1 (63ページ)

定理 26. 体の乗法群の任意の有限部分群 S巡回群である.

補題 1. 1つのアーベル群の元 AB の位数をそれぞれ ab とし,cab の最小公倍数とすると,この群の中には位数 c の要素が存在する.*2

証明 (略)

補題 2. 1つのアーベル群で,最大の位数 c を持つ元 C が存在するならば(有限群はつねにこの条件を満たす),c はこの群の任意の元 A の位数 a で割り切れる.よってこの任意の元は,x^c = 1 を満たす.

証明 (略)

定理26の証明 S の位数*3n とし,S の要素のもつ位数の中で最大のものを r とする.すると S のすべての要素は x^r = 1 を満たす.次数 r のこの多項式は,体 K の中では根を r 個以上もち得ないので, r \ge n である.

定理26はまた,有限生成のアーベル群に関する基底定理を用いても証明することができる.そのための用語の定義を以下にあげる.

定義 生成 G をアーベル群とし,群演算を加法で書き表わすとする.G の要素 g_1,g_2,\cdots,g_k が群 G を生成するとは,G の任意の要素 g が g_i の倍数の和として,

g = {n_1}{g_1} + {n_2}{g_2} + \cdots + {n_k}{g_k}

の形に

基底定理 有限生成のアーベル群は,k をその極小な生成系の要素の個数として,巡回部分群 G_1,G_2,\cdots,G_k の直積である.ただし,i = 1,2,\cdots,k - 1 のとき G_i の位数は G_{i+1} の位数の約数である.

証明 (極小な生成系の個数 k帰納法.)

  1. k = 1 の場合,この群は巡回群であり,定理は自明である.
  2. k - 1

 

*1:原書では "Finite Fields"

*2:寺田文行の訳を変更した.

*3:この『位数』は群の要素の個数.