ガロアに出会う

5次以上の方程式には解の公式がないことをいうためには、以下を証明すればよい。

P を数体としたとき、P-係数の既約多項式の根 \alphaP 上のガロア群が可解群でないのなら、\alphaP 上べき根で表すことができない。

そのために、この本は上の内容の対偶である以下の定理を証明している。

 定理 19.3 P を数体とする.複素数 \alphaP 上べき根で表せるならば,\alphaP 上代数的であって \alphaP 上のガロア群は,可解群である.

P 上べき根で表せる複素数 \alpha は、可解なガロア群をもつガロア拡大 P \subset L の元である.\alphaP 上代数的となって、\alphaP 上の最小多項式があって、その最小多項式の根を P につけ加えた体 K がある。求める \alphaP-上のガロア群は、G(K, P) で、このガロア群は、可解群である、というのがこの定理の証明の自分なりの要約。

 ここで、複素数 \alpha がべき根で表せるとは、

定義 4.1 P を数体とする.複素数 \alphaP 上べき根で表せるとは,以下の条件をみたす数体の列 L_0, L_1, L_2, \cdots L_N が存在するときをいう.

(a) P = L_0 \subset L_1 \subset L_2 \subset \cdots \subset L_N

(b) \alpha \in L_N

(c) \forall i, 1 \leq i \leq Nについて,L_i = L_{i-1}(u_i), u_i^{n_i} = c_i, c_i \in L_{i-1}

ということ、つまり、『\alphaP に属する複素数と四則記号(+,−,×,÷)とべき根記号の組み合わせで表せる』(84ページ)ことであり、また、可解群とは、

定義 19.2G可解群であるとは次の (a) または (b) が成り立つときをいう.

(a) G はアーベル群である。

(b) 次の条件 (1) と (2) をみたす群の列

    H_0 \supset H_1 \supset H_2 \supset \cdots \supset H_{n-1} \supset H_n

が存在する.

(1) G = H_0 で,すべての i について H_{i+1}H_i正規部分群である:

    G = H_0, H_0 \triangleright H_1, H_1 \triangleright H_2, \cdots, H_{n-1} \triangleright H_n

(2) H_0/H_1, H_1/H_2, \cdots, H_{n-1}/H_n および H_n はすべてアーベル群である.

と定義する。

証明は、以下のように進む。

  1. 命題 21.5 により、P-上べき根で表せる複素数 \alpha を含む Pガロア拡大L で、そのガロアG(L,P) が可解群である L が存在する。
  2. \alpha \in LP \subset L より、\alphaP 上代数的である(命題 11.5 (a))から、\alphaP 上の最小多項式 h(x) の根 \alpha, {\alpha}_2, \cdots ,{\alpha}_mP に付け加えた体を K とおく。
  3. このとき \alphaP 上のガロア群は G(K,P) で(定義 12.8)、\alpha \in L かつ {\alpha}_2, \cdots ,{\alpha}_m\alphaP 上共役だから、{\alpha}_2, \cdots ,{\alpha}_m \in L。よって、K \subset L
  4. P \subset Lガロア拡大だから、K \subset Lガロア拡大命題 21.1)。よって、命題 18.1 より、G(L,P)/G(L,K) \cong G(K,P)
  5. G(L,P)が可解群であることと命題 21.3 (2) により、G(K,P) すなわち \alphaP 上のガロア群は,可解群であることが証明される。

上の証明で使われた命題等は以下の通り。

命題 21.5 P が数体で、複素数 \alphaP 上べき根で表せるとする.このとき,次の条件をみたす P の拡大体 L が存在する.

(a) \alpha \in L

(b) P \subset Lガロア拡大である.

(c) G(L,P) は可解群である.

P 上べき根で表せる複素数 \alpha に対して、そのガロア群が可解群である Pガロア拡大体である L が存在するということ。

命題 11.5 P \subset Kガロア拡大とする.このとき,次の (a) と (b) が成り立つ.

(a) K に属するすべての複素数P上代数的である:

    \beta \in K \Rightarrow \betaP上代数的

(b) P上共役な2つの複素数は,もし一方が K に属していれるならば,もう一方も K に属している.

    \beta, \gammaP上共役,\beta \in K \Rightarrow \gamma \in K

定義 12.8 複素数 \alphaP 上代数的であるとする.そして,\alphaP 上の最小多項式h(x), h(x) = 0\alpha以外の根が \alpha_2,\cdots,\alpha_m であるとする:

  h(x) = (x - \alpha)(x - \alpha_2)\cdots(x - \alpha_m)

そこで,P\alpha, \alpha_2, \cdots, \alpha_m をつけ加えてできる P の拡大体を K とする:

  K = P(\alpha, \alpha_2,\cdots,\alpha_m)

そうすると,h(x)P-係数多項式だから,P \subset Kガロア拡大である.そこで,このガロア拡大 P \subset Kガロア群を,\alphaP-上のガロア群と呼ぶ:

  \alphaP-上のガロア= G(P(\alpha, \alpha_2, \cdots, \alpha_m), P)

命題 21.1 P, K, L は数体で,P \subset K \subset L をみたすとする.このとき,もしも P \subset Lガロア拡大ならば K \subset Lガロア拡大である.

命題 18.1 P, K, L が数体で,P \subset K \subset L をみたし,

  P \subset KK \subset LP \subset L

は,すべてガロア拡大であるとする.このとき,G(L, K)G(L, P)正規部分群であり,G(L, P)G(L, K) による剰余群は G(K, P) に同型である:

  G(L, P)/G(L, K) \cong G(K, P)

命題 21.3 GW が群,HG正規部分群

  G/H \cong W

であるとする.このとき,次の (1), (2) が成り立つ.

(1) WH が両方とも可解群ならば,G は可解群である.

(2) G が可解群ならば,W は可解群である.

19.3 の証明の 1. で使う可解群 G(L, P) を持つガロア拡大P \subset L は、\alpha を含んではいるが、この可解群は、\alphaP-上のガロア群ではない。これは、定義 12.5 と命題 12.6 で決まる P をとめる L \rightarrow L の自己同型全体の集合からなる群のこと。

命題 21.5 は、定理 19.3 の仮定「複素数 \alphaP 上べき根で表せる」ことを、\alphaガロア群が可解群であることと結びつける最初のステップ。21.5 を証明するために使われるのが、命題 20.4。

命題 20.4 2項拡大のガロア群は可解群である.具体的にいうと:

  L = P(x^n - c), c \in P, c \neq 0, n \geq 2

とする.このとき P \subset Lガロア群は可解群である.

21.5 の証明は、定義 4.1\alpha \in L_N をべき根で表すときに存在した数体の列数が2の場合(L_N = L_2)でおこなっている。つまり、

  P \subset L_1 \subset L_2

  L_1 = P(u_1), u_1^{n_1} = c_1, c_1 \in P

  L_2 = L_1(u_2), u_2^{n_2} = c_2, c_2 \in L_1

  \alpha \in L_2

として、L_2 を含む2項拡大の列を構成する。2項拡大のガロア群は、20.4 で可解群であり、その列の最後の2項拡大を L にして題意の拡大体 L を構成している。